桜の下で笑おう

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「温かくなりはじめたとはいえ、まだまだ冷えますからね。 温まりますよ」 差し出されたコップからは温かそうな湯気が立っている。 そろりと近づいて近くに座ると、コップを受け取った。 「……ありがとう」 コップの中身は紅茶だった。 ほんの少しだけ甘くしてあるそれは、私の冷え切った心と身体をじんわりと温めていく。 「……失恋、したんだ」 別に理由なんて話さなくていいとわかっている。 でも、誰かに聞いて欲しかった。 二度と会うこともないであろうこの男なら、旅の恥は掻き捨て的な感じで話していいかと思った。 「同じサークルの先輩で。 入ったときから妹みたいに可愛がってくれて」 視界が徐々に滲み出し、慌てて鼻を啜る。 男はじっと、なにも言わずにいてくれた。 「先輩が私にそういう感情はないってわかってたし、好きな子がいるのも知ってた。 でも、もしかしたらって」
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