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しかし、満開の桜の下でこない彼女を待っている奈桜人を想像すると胸がずきずき痛む。
なんで彼女はこんな残酷な約束をしたのだろう。
信じて桜の世話をして待っている奈桜人が可哀想だ。
「萌依さん、萌依さん」
手招きする奈桜人の元に行くと、蕾は咲くのをいまかいまかと待っているようだった。
「開花予想は一週間後ですし、いよいよ咲きますよ」
嬉しそうに笑う奈桜人が不憫でしょうがない。
……咲いたって彼女とは会えないんだよ。
そんな言葉は飲み込んだ。
「咲いたら笑うって約束ですからね。
笑ってくださいよ?」
「あー」
したな、そんな約束。
まだ覚えてるなんて思ってなかった。
奈桜人と桜の世話をしているうちに、失恋の痛みはすっかり忘れていた。
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