第1章

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 そのショッピングモールには、西洋の建物を模した、特徴的な店が並んでいた。またそれは、実際にショッピングをしなくても、景観だけでも楽しめるような造りになっていた。そして、その日は7月の終わりで、(小中高生にとっての)夏休みということもあり、モールは人でごったがえしていた。健吾はその時、このショッピングモールは、さながら西洋の、観光地のようだ、と心の中で思った。  また、麻衣から、 「ねえねえこの建物、絶対イギリス風だよね?…フランス風じゃなくて!」 と冗談を言われ、健吾は少しムキになって、 「いやいや、フランス風でしょ!」 と言ったことも、覚えている。その時は、 「じゃあどっちが正しいか、勝負しようよ!」 と麻衣に言われ、 「分かった。」 と、健吾は言ってしまった。  「でも、どうやって勝負するの?」 「それは…お互いの、イギリス文学とフランス文学の、造詣の深さで勝負!…ってのは、どう?」 「まあ、いいけど…。  でもそれって、もはやどっちが正しいとか、関係ないじゃん。」 「いいじゃん別に。私、1回これをやってみたかったの!」  そう言って、麻衣は、大好きなイギリス文学について、語り出した。  そして、健吾は、麻衣のイギリス文学に対する造詣の深さに、驚かされることになった。シェイクスピアから、ヴィクトリア朝時代の文学、はたまた日本出身のイギリス人作家、カズオ・イシグロまで、麻衣のアンテナは、張り巡らされていた。 「すごいね麻衣!正直、麻衣がそこまで文学に詳しいなんて、知らなかったよ。」 「それって、私がバカっぽいってこと?」 「いや、そういう意味じゃないけど…。」 「なんか納得いかないなあ…。  まあいいや、じゃあ次、河村健吾選手、行ってみましょうか!」 「はい、鈴木麻衣選手!」 健吾はそう冗談を言い合った後、自分のフランス文学の知識を披露した。それは啓蒙思想の時代から、19世紀のユーゴー、スタンダール、バルザック、フローベールなど、多岐にわたるものであった。 「へえ~。やっぱり健吾も、フランス文学に詳しいんだね。  それで、気になる判定は…、  引き分け、ってことで!」 「えっ、僕の方が若干勝ってると思ったけどな…。」 「いいじゃん、固いこと言わずに。」 「分かったよ。  ところで、あの建物はイギリス風?フランス風?」 「それも、どっちでもよくなってきちゃったかな。」 「何だよそれ~。」
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