第1章

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 でも、それはよく分かんないわね。多分、優が何かしたんだと思うわよ。とりあえず、連絡待ってみるしかないわね。」 「そんなこと、言われなくても分かってるよ! …ごめん。俺、自分の部屋に上がってくる。」 優は、母親の言葉にイラッとしたが、それが八つ当たりであることにすぐに気づき、謝った。 「何やってるんだろうな、俺…。」 優は、そんな自分に嫌気がさした。そして、窓の外を見れば、そこにはポツポツと、雨が降り始めていた。そういえばこの時期は、晴れたり、雨が降ったりを繰り返す時期だな、優はそれを見て、ふとそんなことを思い出した。今外で降っている春の雨は、しとしと降るものだが、今の自分の気持ちは、土砂降りの夏の雨のようだ…。優はそんなことも考え、1人自分の部屋の中で、暗い気持ちになった。  優はしばらく感傷にふけった後、こんなことばっかりもしていられないと思い、とりあえず、大好きなエレキギターを取り出して、練習することにした。 「こういう時には、好きなことを思いっきりやって、気分転換するに限る。とりあえず、洋楽バンドのコピーでもするか。」 優は独り言を心の中で言いながら、ギターのチューニングを始めた。  しかし、電池が切れてしまったのか、チューナーが全く動かなくなった。 「困った。確か、今家に予備の電池はない。この雨だと、買いに行く気にもなれないし…。仕方ない。自力でチューニングするか。」 優は心の中でそう呟き、音叉を取り出して、自力でチューニングを始めた。  ちなみに、エレキギターに限らず全てのギターは、音叉を用いてチューニングをすることができる。5弦の「ハーモニクス」と呼ばれる音を出し、それを音叉の音と合わせて基礎となる音を作り、その後、完成したその5弦の音と、他の弦の音とを合わせて、チューニングを完成させるのだ。(ただ、最近はチューナーが簡単に手に入るので、この方法を使う人は少なくなったが。)  そして優は、チューナーに頼らず、自力でもチューニングができるようになりたいという気持ちも持っていたので、この方法も、時々練習していた。そして、ギターを弾き始めてからしばらくした後に、この方法をマスターしたのである。
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