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「私、大学の近くにアパート借りて、一人暮らししたいって、思うんだ~。やっぱり、毎日片道2時間はキツいし、それに、アパートに下宿って、何か、大学生、って感じするじゃない?」
と、こぼしていたことがある。
そして、優は電車を乗り継ぎ、史香の実家へと向かった。その日は、昨日の雨が嘘であるかのような、快晴の日和であった。また、その車中、窓の外には、桜の木が所々にあったが、昨日降った雨のせいで、花びらはだいぶん落ちてしまっていた。いつもなら、
「ああ、桜の花もそろそろ終わりか。残念だな。」
と思う程度の優であったが、(もちろん、それでも寂しい気持ちにはなるが、)この日の優は、昨日と同じく気持ちがふさぎ込んでいたため、
「この桜の花びらのように、俺と史香との関係も、散ってしまうのかな…。」
などと、いらぬことを考えてしまうのであった。
最寄り駅から少し歩いた所に、史香の実家はあった。史香の実家は、さすがお嬢様、というだけあって、大きな洋風の建物で、風格を兼ね備えていた。また、庭も大きく、芝生等の手入れも行き届き、そこに住んでいる人の品格を感じさせるような、そんな佇まいであった。
今日は大学は休みだが、史香は家にいるのだろうか?いや、そもそも、史香は会ってくれるのだろうか?優はそんなことを考えながら、史香の家の玄関の、インターホンを押した。
「はい、どちら様でしょうか?」
インターホンから聞こえてきたのは、聞き覚えのある、史香の母親の声であった。
「すみません、大野優です。史香さん、いらっしゃいますでしょうか?」
「ああ、優くん。ちょっと、待ってくださいね。」
史香の母親が答えた。
「ちょっと待って、ってことは、史香は中にいる、ってことだろうか?もしかしたら、史香に会えるかもしれない。」
優は心の中でそう呟いた。その瞬間、優の頭の中に、少しの期待がよぎった。
そして、外に出てきたのは、史香の母親1人であった。
「ごめんね優くん。史香なんだけど、今家にいないの。前から史香、
『下宿したい。下宿したい。』
って言ってたんだけど、今日はその準備で、大学の近くまで出てるの。
遠い所からわざわざ来てくれたのに、ごめんなさいね。
それで優くんは、史香の下宿のことなんかは、聞いてなかったの?」
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