第1章

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「優、ケインズ経済学の所、難しくて分かんないよ~。教えてくれない?」 など、経済学初心者の史香は優によく質問をし、その度に優は、史香に頼られている気がして、少し嬉しい気持ちになったのであった。  ただ、この日は史香は、講義を欠席していた。卓也の言う通り、史香は最近、大学にも来ていないらしい。  90分後、この日の経済学の講義は終わった。講義中、ウトウトしていた優は、講義が終わっても眠気が完全に払拭できず、そのため講義室を出るのが、1番最後になっていた。      そして、優が講義室を出ようとした瞬間、1冊のノートが、目に留まった。その装丁からして、女の子のノートであるらしい。これは誰かの忘れ物に違いない。だとしたら、とりあえず教務に届けないといけない―。そう思った優は、そのノートを、手にとった。  次の瞬間、優は固まり、その場から動けなくなった。なんとそのノートには、 「新川史香」 と、名前が書かれていたのである。今日は史香は講義に来ていないはずなのに、どうしてこの講義室に、史香のノートがあるのだろうか?優は、少し疑問に思った。  しかし、それよりも何よりも、これは史香のノートだ。そして、よく見ると、これは日記帳であるらしい。これはすぐに、史香に届けないといけない―。でも、電話にもメールにも返答・返信がなく、史香の下宿先も知らない状態で、どうやってこれを史香に届ければいいのか?優は、少しの間、考えた。  結局、優はいい考えが思いつかず、とりあえず、その日記帳を、自分の家へ持って帰ることにした。  家へ戻り、自分の部屋に入った優は、日記帳のことを、まだ考えていた。しかし、いい案は思い浮かばない。史香の携帯に、日記帳のことについて連絡を入れても、返信が来る気がしない。かといって、また片道2時間かけて、史香の実家に届けるのは大変だ。優は、そう思った。  そうこうしているうちに、優はある好奇心にとらわれた。それは、 「史香の日記帳を、少しだけ、見てみたい。」というものであった。もちろん、これは褒められた行為ではないかもしれない。しかし―、 「ごめんね、史香。」 優は心の中で謝りながら、史香の日記帳をめくった。  三 追憶  優がめくった史香の日記帳の最初のページには、優と史香とが、付き合い始めた頃のことが、書かれていた。  
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