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そこは、ドキドキの最高点であった。観覧車が頂上にいるのは、一瞬であったが、2人には、その時間が、何時間もずっと、続いているように感じられた。時が止まるというのは、このようなことを言うのだろうか。できれば、このままずっと、2人でこうしていたい、優と史香は、お互いにそう思った。そして、観覧車の窓からは、夕日が差し込んでおり、その光が2人の顔を、照らしていた。それはロマンチックな光景であったが、その瞬間の2人には、そんなことも、気にならなかった。
「楽しかったね、優。」
「うん。」
観覧車から降りた優と史香は、自然と、手を繋いで歩いていた。その時は2人とも、まだ夢の中にいるような、そんな気分であった。
―実は私は、高所恐怖症で、ジェットコースター類はもちろんダメだけど、観覧車も、怖かったんだ~。でも優が乗りたいって言うから、頑張って、乗ることにした。
それで、観覧車がどんどん上がっていく時は、本当に怖くて、思わず優の手、握っちゃった。それで、優は、そんな私の手を、優しく握り返してくれた。その時私は、本当に、優のことが好きなんだ、そう思った。だから思わず、腕組みしちゃった。
優は、一見頼りなく見えるかもだけど、本当は、優しいだけじゃなくて、リードもできる、頼りがいのある人なんだ。本当に私、優と出会えて、良かった!
ただ、私の高所恐怖症は、分からなかったみたいだけど。―
「そういえば後で、史香は高所恐怖症だって、言ってたっけ。この時は、気づかなかったけど…。」
優は、2人で観覧車に乗った時のことを、思い返していた。確かに、観覧車に史香を誘った時、一瞬史香の表情が曇ったことは、覚えている。しかし、その時の優は、2人きりのデートで、舞い上がっていたこともあってか、その原因が分からず、またどうしても観覧車に乗りたかったので、史香のそのサインを、見逃してしまった。
「ちょっと史香には、悪いことしちゃったかな。もう少し、史香の様子に敏感になるべきだった…。」
優は、そう思った。
そして、史香が手を握ってきた理由も、単に手を繋ぎたかっただけではなく、怖かったからだったんだな、優はそのことにも、改めて気づかされた。その時の史香の気持ちを思い、優は、自分の行動を少し後悔した。
ただ、史香が、
「優は、頼りがいもある。」
と、日記に書いてくれていたことが、せめてもの救いであった。
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