第1章

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 優は、そこに留まっていても仕方がないので、気を取り直し、カフェを後にした。外を見れば、そのカフェの近くには、桜の木がある。今は4月上旬ということもあり、また、今日は雲一つない快晴であったので、優は桜の花がきれいに咲いているのを、はっきりと見ることができた。春は出会いの季節であると同時に、別れの季節でもある―。そして今の優にとって、この季節は後者にあたる―。優は、悲しい気持ちになりながら、自分の心とは裏腹の、晴れわたった空と満開の桜を見上げた。また、優の目には、涙が光っており、空や桜を見上げていないと、それがそのままこぼれ落ちてきそうで、いたたまれない、優はそんな気持ちであった。        ※ ※ ※ ※  優と史香が出会ったのは、大学の軽音サークルである。1年前の今頃、とある総合大学の、経済学部に合格した優は、 これから始まるキャンパスライフに、期待と一抹の不安を抱いていた。そして、大学に入ったからには、何かのサークルに入りたい、優はそう思い、かねてより興味のあった、軽音サークルに入ることにしたのである。優はそれまで、楽器演奏の経験はなかったが、ロックなどの音楽が好きで、いつか、自分もギターやドラムなどをプレイしたい、そう思っていた。そして、憧れの軽音サークルに入ることになり、ちょうどギターのポジションが空いていたので、ギターをプレイすることになったのである。  また、1度ハマると、とことんのめり込むタイプの優は、ギターを中心としたロックミュージックで、今まで聴かなかったような、洋楽のマニアックな曲まで、聴くようになっていた。そして、研究熱心なところもある優は、有名なギタリストのライブ映像や、MVもほぼ毎日見るようになり、ギターの腕前を、どんどん上げるようになっていた。ただ、そのためか、学業の方はどうしてもおろそかになり、周りの友達に、 「優、音楽に対して研究熱心なのはいいけど、勉強もしなよ。ところで、単位の方は大丈夫?」 と、心配される始末であった。(もちろん、優は後の期末テストである程度の成績を収め、単位はとれているが。)  そして、そのサークルに史香が入ってきたのは、満開の桜が葉桜になり、夏の香りが見え始めた、季節の頃であった。  「新川史香です。今日から、ここの軽音サークルに入ることになりました。よろしくお願いします!」   
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