第1章

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「イカサマとは失礼ですね。これは賭けです。だってこのゲーム、普通にやったら、後攻が必ず勝つじゃないですか。」 「…始めからそのつもりだったんですね。あなた、予備の花びらを1枚用意して、私の目を盗んでテーブルの上に置いたんですね。  私、そのことに全然気づきませんでした。それは認めます…認めますが、インチキには変わりありません。やっぱり私、失礼します。」  「ちょっと待ってください。」 悠馬は、美月を呼び止めた。(今日だけで、何度悠馬は、美月を呼び止めただろうか。) 「僕、マジックが趣味なので、これくらい朝飯前です。」 「…そんなことは聞いてません。」 「すみません、余計なことでしたね。 でも美月さん、さっき自分で、 『僕のイカサマには気づかなかった。』 というようなこと、言われてたじゃないですか。  実はそれも、計算済みのことでした。  僕は、美月さんとは、未来の世界では付き合っているんです。だから、美月さんのこと、よく分かっているつもりです。  美月さんは、人をよく見るタイプですが、ちょっと、早とちりな所がありますね。この賭けだって、美月さんが僕のイカサマに気づいて、花びらを2枚とれば、完全に僕の負けでした。  でも、美月さんはそうはせず、1枚しか花びらをとらなかった。…それは、ちょっと早とちりで、おっちょこちょいな美月さんの性格を考えて、僕が仕掛けた罠です。  だからこの勝負、完全に僕の勝ちだと思います。」 美月は、悠馬にそう言われ、少し黙り込んでしまったが、何とか言葉を絞り出した。 「そう言われてしまうと…。  それにしても、大した自信ですね。」 「…いいえ。自信なんてありませんよ。  僕にとって、これは本当に賭けでした。だって、いくら僕が美月さんの性格を把握しているからと言って、うまくいく保証はどこにもありません。あと、一応僕はマジックをやっているので、この手のことは得意です。…ですが、それも、100%確実に、うまくいく保証なんて、ありません。」 「…分かりました。この勝負、私の負けです。あなたは、未来の私を、しっかり見てくれているんですね。」 「ありがとうございます。  でも、僕がこの賭けに勝てて、本当に良かった。」  そう言った悠馬の目には、うっすら光るものが浮かんでいた。
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