第1章

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 夏場だったら分かるんだけど、春に急な雨って、何かピンとこないね。」 美月がそう付け加えた。実際、その日の雨は、春に降るにしては、少々強めの雨であった。(もちろん、夏場の夕立に比べたら、弱い方ではあるが。)しかし、(他の2人なら嫌がるかもしれない雨でも、)美月は、それを嫌だとは感じない。なぜなら美月は、日本文学というフィルターを通して、自然を見ることが好きだからだ。美月は、俳句は嗜まないが、文学の1つである俳句で、先人の書いたものを読むのは好きで、例えば、 『この、季節外れのような雨を、松尾芭蕉ならどう詠むのだろう。』 など、考えるのは好きであった。(その辺り、美月は少し、変わった女の子であるかもしれない。)  そうやって、美月が雨に思いをはせていると、真由が、急に話を変えてきた。 「ねえねえ美月、美樹、突然だけど、美月と美樹は、運命って信じる?」 「えっ、急にどうしたの真由?」 「いや、私の話になるんだけど、私、ちょっと前に、大好きだった彼と別れたんだ。それで、その彼に、私は勝手に、運命感じてたんだけど、その運命も、偽物だったみたい。  もう少し詳しく話すと、 『ねえ、運命って信じる?』 みたいなことを、私がその彼に言ったのね。すると、その時は、 『俺、よく分かんないや。』 って彼は言ってたんだけど、それからしばらくして、彼の方から、 『ごめん、真由。俺、やっぱり、運命とかそういうの、重いわ。』 って言ってきて、私、振られちゃった。  はっきり言って、私、まだ心の整理が、ついていないんだ。もちろん、美月や美樹と、こうやってカフェで話をするのは、楽しいよ。でも、私の心のどこかは空っぽで、それは、彼じゃないと埋められない、そんな気もしたりするんだ。  もう終わった恋だ、ってことは分かってる。…頭では分かってるんだけど、まだ心が、追いついていない、っていうか…。  それで、 『また重いって言われるかもしれないし、運命なんて考えるの止めよう。』 って、思ってみたんだけど、やっぱり運命を信じたい、そう思う自分がいるの。いつか、運命の人と巡り合って、恋をして、結婚して…。私、そんな人生を送りたい。  …やっぱり私って、重いのかな?正直イタイって思ったら、言ってくれていいよ。  なんか、楽しいカフェの時間に、こんな話してごめんね。」
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