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『それに、相手は初対面の、見ず知らずの男性だ。何か、悪いことを考えているかもしれない。それで、話しかけてきたのかも…。』
美月はそうも考え、何とかこの場を、終わらせようとした。
「いえ、話の内容は聞こえませんでしたが、何か、大事な話をしているように、見受けられました。」
青年は、やはり快活な雰囲気で、そう答えた。その青年のスマイルには隙がなく、こうやって、女性と話をすることにも、慣れているような雰囲気であった。
「そうなんです!実は私たち、恋バナで盛り上がっていて…。」
真由がそう話しかけ、さらにこの青年との話を続けようとした時、青年の方から、意外な返答があった。
「すみません、僕、あまり時間がないんです。それで、今日は少し話があって、来ました。…谷山美月さん、少し2人で、話をさせて頂いても、よろしいですか?」
「え、何!?美月、知り合いの人?」
真由はその青年の一言に、びっくりしてこう答えた。
「え、あ、いや、その…。」
美月は、頭の中の記憶を必死になって探したが、答えは出て来ない。
「美月さん、すぐに話は終わります。だから、少しだけ、2人きりで、話がしたいんです。用件が終わったら、僕はすぐに帰りますから。」
青年は、その笑顔を、美月の方に向けた。
「なんだ。美月の知り合いか。分かった。私たち、先に帰ってるから。じゃあ、帰ろう、美樹。」
「うん…。じゃあね、美月。」
「え、わ、分かった。またね、真由、美樹。」
美月は、やはりこの青年のことは思い出せなかったが、とりあえず、要件を済ませたら帰る、とのことなので、少しだけ話をしよう、そう思った。
また、相手が怪しい人物でも、自分が慣れ親しんだこのカフェなら、大丈夫だろう、美月はそうも思った。
「では、ここよろしいですか?美月さん。」
「すみません…。私、あなたと前に、どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?どうしても、思い出せないんですが…。」
美月は正直に、こう答えた。
「いえ、僕たちは、この時間、2016年の4月段階では、会うのは初めてです。
申し遅れました。僕、中谷悠馬(なかたにゆうま)と言います。」
「会うのが初めて…。」
「ええ、少なくとも、2016年4月段階では、という意味ですが…。」
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