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「とりあえずは、内緒。今日はクリスマスイブだから、2人で楽しもうね!」
奈美の甘えた口調での質問に、奏が答えた。今日の奈美は、女の子らしい、白のステンカラーのコートを着ており、メイクも、ナチュラルな中にかわいらしさが覗いている。奏にとって特別な日は、奈美にとっても特別な日で、この日のために、2人はおしゃれをしてきたのであった。
そして、2人は目的地の、レストランへと歩き始めた。付き合い始めた頃は、ぎこちなかった2人であったが、今は何の違和感もなく、手を繋いでいる。辺りを見渡せば、クリスマスのイルミネーションが、少しずつ点灯し始め、今日の2人を、祝福しているかのようであった。
また、この10年の間に、奏の中で、ある大きな夢が膨らんでいた。それは、「プロの作家になる。」ということだ。
前にも述べた通り、奏は、昔から小説が大好きであった。しかし、奈美と付き合い始めた頃は、自分に小説が書けるなんて、思ってもみなかった。そんな奏であったが、大学に入学し、奏の生活に転機が訪れることになる。たまたまその大学で出会った友達に、
「一緒に、文芸サークルに入らない?」
と誘われたのだ。もちろん、その時の奏には、自分から何かを書く、ということは想像もできなかったが、せっかく仲良くなった友達の誘いということもあり、
「分かった。じゃあ一緒に入ろう。」
と、奏は二つ返事をしたのであった。
そこから、奏は小説を書き始めた。すると、自分でも意外なことに、言葉がとめどなく溢れてきた。プロットを書いて、下書きをして、そして本文を完成させる…。その行程は、予想以上に、奏を楽しませた。また、もともと自分の中で目標を立てて、それに向かって努力することが好きな奏は、「小説を完成させる」という「目標」に向かう、その過程も、好きであった。そしてその時奏は、漠然と、「プロの作家になりたい。」と、思うようになった。
しかし、現実はそう甘くはない。奏は学生時代、何度か新人賞に応募したが、全て落選であった。そのため、奏はプロの作家になることは諦め、大学卒業後、地元の特別養護老人ホームに、介護士として働くことになったのである。
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