第1章

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   Geekに恋した2人  一 運命の人  12月24日。今日は恋人たちにとって、特別な日だ。この日、クリスマスイブは、本家本元のヨーロッパでは、事情が違うのかもしれないが、少なくとも日本では、恋人と過ごすのが、当たり前になっている。そして、下世話な話ではあるが、この日、クリスマスイブに、恋人と過ごせる人は、「勝ち組」、そうでない人は、「負け組」と呼ばれ、この2組の間には、一種の差別が存在している、と言っても過言ではない。  そんな、悲喜こもごもの気持ちを乗せた、とある街の片隅に、森田奏(もりたそう)という1人の青年が、クリスマスプレゼントを片手に立っていた。彼が立っているのは、地元では少し有名な、大きなクリスマスツリーの下である。そこはちょうど待ち合わせに便利で、周りを見回せば、夕方の時間帯ということもあり、今日という日を楽しみにしている、恋人たちばかりであった。  彼はこの日のために、いつもかけている眼鏡を外してコンタクトレンズにし、また今シーズン新しく買った、流行りのコートを着ている。普段流行に敏感ではなく、ファッションにそれほど興味のない奏であったが、この日は特別であった。  「おまたせ!待った?」 「ううん。全然待ってないよ。」 そうこうしているうちに、奏の恋人、木村奈美(きむらなみ)が、クリスマスツリーの下へやって来た。奏はそれを、満面の笑みで迎えた。本当は少し待っていたのだが、そんなことはどうでもよかった。また、奏には恋人がいるので、一応、この日の「勝ち組」に分類されるのだが、そんなことも、今の奏の頭の中には、全くなかったのであった。        奈美と奏は、高校時代からの同級生、詳しく言えば、高校1年生の時のクラスメイトであった。人見知りがお互いに激しい2人は、男子と女子、ということもあり、最初は、廊下で出会った時にあいさつする程度で、仲良く話をする、という雰囲気では決してなかった。そんな2人の関係が大きく進展したのは、その年の秋に行われた、体育祭の時である。
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