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その日は9月の秋晴れの日、いや夏の香りが色濃く残る、残暑の厳しい日であった。たまたまクラスの体育祭の実行委員に選ばれた2人は、そこで、話をするようになった。そして、2人とも小説が好き、ということが分かり、そこからは、体育祭の準備もそっちのけで、(もちろんクラスに迷惑がかからないように、最低限の準備はしていたが、)好きな作家、小説について、時間を見つけては2人で語るようになった。その時から、奈美のことを奏が好きになるのは、速かったような気がする、と奏は思っている。奈美は決してクラスで目立つようなタイプではなかったが、笑顔が素敵で、周囲を和ませるような、不思議な力があった。奏は、例えば好きなアイドルなど、少し派手めの女子を好む傾向があり、奏にとって奈美は完全なタイプではなかったが、一緒にいて落ち着く、癒される、そんな恋愛もありなのかな、と、奏はこの時、思ったのであった。
もちろん、例えば中学校の時など、今まで奏には彼女がいたが、その彼女ともすぐに別れ、また奏は決して異性にモテるタイプではなかったので、告白する時は、他の人の倍以上、相当勇気がいった。しかし、奏は自分の気持ちに、素直になりたいと思い、奈美に告白した。
そして、奈美の方もまた、そんな奏に惹かれていた。奏が小説について語る時は、目がキラキラしており、その話を聴くことが、奈美にとって、何よりの楽しい時間になっていた。そして、人が恋をするというのは、こういうことなんだと、奈美は奏を見て、改めて思った。奈美の方も、中学校時代、彼氏がいたが、その昔の恋は長くは続かず、高校に入ってからは、まだ彼氏はできていなかった。
そんな中での奏からの告白に、奈美はとても喜んだ。そして、2人は付き合うことになった。
あれから10年…。あの頃、まだあどけなさの残る、幼い愛を育んできた2人は、気づけば26歳になっていた。この10年、奏と奈美は、別々の大学に進学するなど、すれ違いの要素はあったのだが、それでもお互いに、別れようと思ったことはなかった。そして、現在2人は社会人になり、奏は介護士、奈美は保育士となり、それぞれ頑張っている。2人は、仕事が忙しい時もあり、なかなか会えないこともあるが、それでも、会うのを止めようとは、思わなかった。
「ねえ奏、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
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