少年

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 なにがそんなにぼくたちの心を掴んでいたのかはわからないけれど、この狭い道路で野球をすると普段の何倍もワクワクした。いけないことをしているというスリルもあったのかもしれない。もちろん学校の校庭や近くの公園に行って大勢でするのもそれはそれで楽しかったけど、三人でこの場所でやるというのは、なんだかそれだけで特別な感じがした。 「よーし、おれの魔球で三振させてやる」  友達はそう言って大袈裟に振りかぶって見せた。威勢の良い声と共に勢いのある球が飛んできた。バンという音がして、キャッチャーの代わりに後ろに立ててあった木の板が倒れた。完全に振り遅れたバットはブオンと空を切った。 「やりー」  すぐに得意げな声が聞こえてきた。ぼくは悔しくて赤くなった顔を見せないように、倒れた木の板を元に戻そうとして顔を隠した。 「まだ、ワンストライクだから」  そして、まだ余裕があると思わせるような返事をして、向こうにボールを投げ返す。友達も受けて立つというようなことを言って、再び大袈裟な動きで振りかぶった。今度はもう惑わされないように、ぼくの目は白いボールだけを見つめていた。  友達の顔の横を通り過ぎたボールは、その手から離れると一気にぼくの方へと向かってきた。その勢いには少し押されてしまったけれど、ぼくの目はしっかりとボールを捉えていた。  カーン。思い切り振り切ったバットは見事にボールの真ん中を捉えていた。少し振り遅れたかな―ボールが跳ね返っていく感触を確かめながらぼくはそう思った。 「あっ」  その瞬間、三人の口はほぼ同時に同じ音を出していた。ぼくが打ち返したボールは低い高さを保ちながら勢いよく左の方へと逸れていた。その向かう先のアパートの駐車場には一台の銀色の車がぽつんと置かれていた。そしてボールはその車のちょうど右側のドアの辺りにぶつかって跳ね返った。  バコッ。静まり返った辺り一面に、その鈍い音は響き渡った。三人はしばらく固まって動けなくなった。車にぶつかったボールは勢いを失って、地面の上を転々としていた。しばらくして二人はキョロキョロと辺りを見回して、誰もいなそうなことを確認すると素早く車の方へと駆け出した。ぼくは体中の血が抜けたように真っ青になったままその場に立ち尽くしていた。
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