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この銀色の凹みを見てその人は悲しむだろうか。やっぱり怒るだろうか。それともなんともなかったように笑って見過ごすだろうか。きっとそんなに甘くはないだろう。でもやはり正直に謝らないといけないという気持ちがぼくを掴んで離さなかった。
「おい、お前もなんか言えよ。元はと言えばお前が打ったボールなんだから」
それはぼくが一番言って欲しくなかったことだ。それを言われてぼくはドキッとしてまた口が動かなくなった。でも確かに、その責任がぼくにあるのかどうかは置いておくとして、友達の言うように黙っていても仕方がなかった。
「ぼく、待つよ。この車の持ち主の人が来るまでここにいる」
友達は信じられないと言うような顔でぼくを見た。きっとぼくのことを良い子ぶった小心者とでも思っているに違いない。どうとでも思うといいさ―と心の中でぼくは二人を突き放そうとした。けれども、結局二人はぼくと一緒に地べたに座り、この場に残ってくれた。
けれど、いくら待っても車の持ち主はやって来なかった。
「あー全然来ないな。せっかく待ってやってるのにな」
「このままずっと来なくていいのに」
「もしかしたら、この車、持ち主なんていないんじゃないか?」
段々くたびれてきた二人は、冗談を言って笑い合っていた。そしてすっかり日が暮れた頃になると、二人は家に帰ると言い出した。
「今日はとりあえず帰って、また明日待ってみようぜ」
「きっと、持ち主はいないんだよ」
そう言って二人はそれぞれに分かれた。きっと二人は自分がぶつけたわけじゃなかったから、ぼくよりも少し気分が軽かったのだろう。二人が帰った後も、ぼくはもうしばらく待ってみようと、再び地面に座り込んだ。
一人になると辺りの暗さも相まって余計に心細くなった。色々なことが頭の中に浮かび上がって、ぼくはほとんど泣きそうになっていた。家では父さんと母さんがぼくの帰りが遅いことを心配しているだろう。なんでこんな時間になったのかと聞くだろう。それに対してぼくは、きっと上手く答えられずにただ「ごめんなさい」と謝るだけなんだ。そんな惨めな姿を想像しても、それでもこの車の持ち主に一言謝らなければ帰ることなんてできなかった。
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