春野キリ

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春野キリ

卒業式で三年生を送り出した翌日。ルナの通う高校は春休みに突入していた。そんな中、ルナはいつものように制服に身を包み学校へと向かう。環境委員会の仕事があるからだ。休みといえど毎日花に水をやりに登校する。その行動はとても優等生らしいと言えるだろう。 「花なんて別に好きじゃないけど」 そうぼやきながら散った桜の花弁を蹴るように踏みしめ学校へと向かった。 「ありがとう麻倉さん。もう帰っていいわよ」 「はい。失礼します」 担任に一報を入れ校内をあとにする。結局、ルナ以外の委員会のメンバーはひとりも訪れなかった。きっとまた言われるんだろう。麻倉さん。私たちの分まで働いてくれるなんて優しいね。やっぱり優等生だねって。 時刻は午後一時。まだまだ陽は長い。家に帰る前に公園に寄って読書をしていこう。読書はルナの一番の趣味だ。読書が趣味というといかにも真面目そうなイメージだろう。ルナが周囲の人間から優等生に見られる一因でもある。優等生が読む本といえば日本文学や歴史書などだろうか。そんなことを考えながらこの公園に唯一生えた桜の木の下に腰を下ろし本を取り出す。"世界の始まりの黙示録"本のタイトルだ。異世界転生ファンタジーものである。 「やっぱりラノベは最高だよね」 ルナの愛読書は所謂ライトノベルと呼ばれるものだった。お堅い文学などと違いキャラクターもストーリーも果ては文章までもが固定観念に囚われずめちゃくちゃにぶっとんでいたりする。ルナはそんな自由なライトノベルやそのキャラクター達が好きだった。自分が周りから模範的な優等生に見られているからだろうか。校則なんかに囚われない物語のキャラクター達に憧れさえ抱いていた。 「私もなりたいな。本の中の人達みたいに…」 「ねぇ、そこのあんた!」 「えっ」 木の根元に腰掛け読書をしていると頭上からハキハキとした声が降ってくる。上を向けば桜の木の上からひとりの女の子がこちらを見下ろしていた。 「おさげの髪に黒縁眼鏡。指定の長さのスカート丈におまけに顔のそばかす。やっぱりあんたがいい!」 そう言うと桜の木の上から女の子が飛び降りてくる。同時に絵の具や絵筆、スケッチブックなんかも揺れた木の枝から降ってきた。 「あたしはキリ。あんたのこと描かせてよ!」
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