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まだ三月なのに、やけにあつく寝苦しい夜。僕は、四月からの大学の入学の為にこの街にやってきた。おおよそ田舎者の僕はその安さから、学校からは少し遠いこの街の古いアパートで暮らすことにしたのだ。
「眠れりゃいいや」
多分4畳半ぐらいの部屋には、もちろんエアコンなんてものは無い。
東京の三月は程々暑かった。
かび臭い部屋のむっとした臭いを紛らわせるように、少しガタガタいう窓を開け、何も無い畳の上に寝転んだ。
「桜ヶ丘…」最寄りの駅は洒落たベットタウンの匂いがした。
程よく風も通り、一日緊張していた僕は、なんだかうとうとしてしまっていた。
…くれない?…待っていたのよ…
風にのって、ほのかな甘い香りと微かに囁く女の人の声が半分寝ぼけた僕の頭の片隅に響いた。
(誰? くれない? 待ってた?)
寝ぼけた頭でそう問うと、さらに言葉が降ってきた。
…紅…桜の木は夢を飛ばすの。
…私は紅桜べにおう。桜の木の精と呼ばれた巫女。
…あなたは…
(僕は?なに?)
…あなたは…鬼。
紅いの鬼。紅皇べにおう…
桜の木の下に私は居る。くれない…逢いたい…
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