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1.序章
「……甲賀高校?」
昼間からビール片手に県予選を観戦する酔っぱらいが呟いた。
人もまばらな尼崎球場では兵庫県予選の準々決勝が行われている。応援団の声が高い空にこだまして、グラウンドの球児たちは今日も眩しい。
酔っぱらいは、ビールを持つもう片方の手で器用にスポーツ新聞を折り曲げながら読んでいる。
「滋賀学院に勝っとる。聞いたことないで」
新聞の右隅に細かい字で各地方の県予選の結果が掲載されている。酔っぱらいは滋賀県予選準決勝の結果に思わず声を出した。
滋賀といえば、昔は群雄割拠で毎年出場校が変わっていたが、もうここ十年ほど滋賀学院高校か遠江高校のどちらかしか甲子園には出ないと言われている県だ。
滋賀学院3-4甲賀
「……まぁ、でも決勝は遠江や。今年の滋賀は遠江で決まりやな」
酔っぱらいが新聞を捲ろうとしたとき、後ろから新聞がつままれた。
「あんさん、滋賀見たか?」
「ああん?」
酔っぱらいが振り返った先にはもう一回り酔いが回っている酔っぱらいが立っていた。
「あんさん、今、滋賀は遠江や言うてたやろ。甲賀の野球、見てへんのかいな」
「滋賀までよう行かんわ。わし、金無いさかいの。大阪の大阪桐心が見れたらそれでええねん。今年の大阪桐心はえげつないしやな」
酔っぱらいはもっと酔っぱらいに向けて抜けた歯を見せながら言った。
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