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中学に入ると、かなり足は早くなった。それでも、シンたちには勝てない。
ワウ! ワウ!
ワオーーーン!
ワンワンワンワン!
夕焼けの空に今日も三匹の鳴き声が響く。
夕食を静かに食べていた時、和巳は箸を置いて父と母を見た。実は和巳はこの父と母どちらにもまだ走力が及ばない。悔しくてしょうがなかった。
「俺は陸上部に入る。毎日、陸上で日本代表になったことがあるコーチが教えてくれるらしいんだ」
父は茶碗を置いて、じっと和巳を見た。母は少し笑みを見せたように感じた。
「和巳、今、シンたちから何秒逃げられるようになったんだ?」
「一対一なら13秒くらい。三対一なら、5秒ももたない。俺はもっと速くなりたい」
「そうか……」
父も少し笑ったように見えた。
母が和巳に向いて父が言いたいことを代弁する。
「和巳、犬走家は甲賀流の中で一、二を争う速さを誇らなければならないの。そして、伊賀流の霧走家には必ず負けてはいけない。私たちは和巳にその訓練を課してる。それが、どれくらいの訓練なのか、そのコーチとやらの走りを見てくるがいいわ。そちらの方が速いなら陸上部とやらに入りなさい。でなければ、一日でも早くシン、ヒョウ、セイから30秒逃げきりなさい」
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