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無機質な遠江姉妹社ペースはじわりじわりと押し寄せてくることになる。2回は互いに無得点となり、迎えた3回。
これまで最高のピッチングをしてきた藤田は、3回に先頭打者をフォアボールで歩かせてしまう。ファウルで粘られ、仕方なくフォアボールになった感覚であった。ノーアウトでランナーを出すも、痛いフォアボールという感触を甲賀ナインには感じていなかった。ただ、惜しいとだけ皆が思った。
次の打者を藤田はあっさりと追い込む。相手はバントしようとしたが、絶妙なコントロールでバントすらさせなかった。今日の藤田はやはり調子が良い。一球ストライクが入るごとに藤田の母親が手を叩いて声援を送っている。
だが、追い込んでから決め球として、低めに投げたスライダーがワンバウンドすると、すさかずランナーは走って二塁を陥れた。
「ドンマイドンマイ!」
月掛が藤田に声を掛ける。藤田も今日の調子の良さに満足していて、あまり気に留めなかった。低めに行きすぎただけだ。高めに浮いたわけじゃない。笑顔で軽く月掛にグローブを上げる。
ノーアウト二塁となり、同点のピンチ。だが、藤田はノーヒットに抑えており、打たれているわけではない。甲賀ナインはこの状況にピンチという自覚をあまり持てなかった。
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