12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 ボーーール!  力む藤田のボールが本来のコントロールを失う。遠江姉妹社のバッターはボール球には一切手を出さない。滝音は何とかしようと肩の力を抜くようにジェスチャーを取るが、藤田は打たれてないのに…という葛藤から離れられなくなっている。  ボーーール! フォアボール!  ノーアウト満塁。  うーーーーーん。  白烏は勝手に迷路に迷い込んでいるようなナインを見て、何とも言えない唸り声を出した。  隣であくせくとメモを取る伊香保に話かけた。 「伊香保」 「何、白烏くん? 今ちょっと忙しいんだけど」 「これがお前の言う甲子園の魔物ってやつか?」  伊香保はメモを取りながら、ふりふりと首を横に振った。 「ううん、こんなもんじゃない。私が研究しても解き明かせないものは、こんなレベルじゃないわ」 「じゃあ、何であんなに皆がバラバラ向いてんだ? 気負ったり焦ったり……。外から見たらよく分かる。このまんまじゃ逆転されんぞ。実力は俺らの方が上かもしんねえのに、ペースは向こうのもんになっちまってる」  伊香保は、白烏の方へ目線を上げた。 「さすが白烏くん。良い洞察力してるわ。でも、これはただの経験の差ね。乗り越えるしかない。私もその突破口を探っているところ」 「ふーーーーん、とりあえず早く投げたいぜ、これならよ」  クスッと伊香保は笑った。 「そうね。でも、私は副島くんの考えが分かる。だから、今はこうして野球をたくさん勉強して。白烏くんの力が必要なのはまだ先。それまでに完成させて」 「まだ先って……ここで負けたら俺終わりやん」  伊香保はまだ危機感に苛まれている訳ではなさそうだった。笑みを浮かべ、白烏に言った。 「このチームにはこれだけのキャラがいる。もちろん白烏くんも含めてね。だから……誰かが突破口を開くと思うわ」
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