12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 たまらず副島の合図で伊香保が橋じいを動かせ、タイムを取った。白烏が伝令としてマウンドへ走る。  白烏は伊香保からみんなを落ち着かせて欲しいと頼まれていた。内野陣が集まるマウンドに到着すると、白烏は最も基本的なことが欠けていることに気付いた。  こいつら、楽しんでねえじゃねえか。  白烏は副島に忍者修練中の写真を撮られ、半ば脅迫されるように野球を始めた。  それでも、いざやってみると、こんなに外の世界は楽しいものなのかと人生で初めて知らされた。身を隠し、ひたすら甲賀忍者の末裔として修練に臨んでいた皆も、おそらくは同じ感情を抱いていたはずだ。  副島に何度も何やってんだと怒鳴られようが、そこには爽快な笑顔が弾けていた。野球というスポーツに少なくとも白烏は恩義を感じていた。皆も、そうであるはずだ。  ただ、実際、公式戦とはこんなものなのだろうか。マウンドに集まる皆の表情が固い。勝利しなければという概念にとらわれ過ぎていた。 「…………」  滝音が、何も言わない白烏に怪訝の表情を向けた。 「……結人、伝令は?」 「……伝令なんてねえよ」  白烏はそう言い放った。 「じゃあ、何で出てきたんや。お前は」  道河原は怒りで頭から湯気を上げている。 「お前らに俺の気持ちを伝えるためだ」
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