12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 バットをボールにうまく乗せる。打撃理論にそのような言葉がある。  大振りすると、長打を狙えるが、当然ピッチャーの投げるボールにバットが当たる確率は低くなる。かといって、当てにいくと、力ない打球は内野ゴロとなる。うまく乗せるとは、ピッチャーの投げるボールの勢いを利用し、打球が上がる箇所へバットを当てる技術だ。長打は狙えなくとも内野の頭を越えることはできる。打席に入った打者はそれができる打者である。  滝音は打席に入った打者を冷静に見極めていた。……おそらくバントしてこないな。確かにこの打者は打撃センスがある。伊香保の分析にもあった。苦手コースもない。……なるほど、ここは畳み掛けて、一気に戦意を奪おうと切り替えたな。  白烏の檄は滝音の脳をリセットさせていた。こうなれば、遠江姉妹社の監督よりも滝音の方が一枚も二枚も上手だ。実際の戦場で軍師として培ってきた血が滝音には流れている。  滝音はニヤリと笑って、藤田にサインを出した。ならば、逆にこちらが戦意を奪わせてもらおう。  滝音が求めるコース、速さが揃えば、おそらく打球はあそこへ飛ぶはずだ。
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