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藤田のボールは右打者の外角に逃げていく。打者はさすがに打撃センス抜群だ。そのボールを追いかけ、うまくバットにボールを乗せた。ライトに向かって打球が上がる。力は無くともセカンドの頭はゆうに越える打球だ。ランナーが一斉にスタートを切る。
遠江姉妹社の監督が拳を握った。完璧だ。4点目が入るのを確信した。
と、二塁へ向かって駆ける一塁ランナーがある異変を感じた。
あれ? セカンドがいない。
二塁ベース上にショートの桐葉がいるが、セカンドの月掛の姿がない。いやいや、そんなことを考えている暇はない。一気に三塁まで陥れてやる。一瞬の躊躇の後、また二塁へと加速した。
同刻、二塁ランナーは三塁へ向かっていた。三塁ベースコーチがぐるぐると手を回している。それを確認して、三塁を蹴ろうとした時だ。
突然、ベースコーチが回していた手を止めた。上空を見上げている。
「ストーーーップ!!」
三塁ベースコーチが叫んだ時、一塁ランナーは変なものを見つけた。足元だ。黒い影がある。顔を上げると、二塁ベース上で桐葉がグローブを構えている。そこにボールが飛んできた。自分の頭上からだ。
……え?
そう声を出した瞬間、空から声がした。
「おっまえ、邪魔だ。どけ!」
空から月掛が落ちてきて、咄嗟に一塁ランナーは月掛を避けた。冷静に桐葉が一塁へボールを送る。審判すらもコールを躊躇した。
アウトッ!
遠江姉妹社のランナーも打った打者も、監督もベースコーチも、それにわずかに集った観客も、呆然として声を失っていた。淡々と甲賀ナインがベンチへと戻っていく。
世にも珍しいトリプルプレーが成立した。狙って達成した滝音の計算もさることながら、やはり月掛の跳躍力は既に人の域を越えている。
「……あの子……空を飛んでたわ……」
スタンドから観ていた藤田の母親もそう呟いて、月掛のジャンプ力に仰天していた。ベンチに戻ってくる藤田は母親に目配せをした。
『ほら、すげえでしょ?』
確かに息子の言う通り、これはすごい。藤田の母親は、息子が観に来て欲しいと言った意味を理解した。
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