12.いざ初戦 甲賀者、参る

34/75
前へ
/531ページ
次へ
 月掛はストレートを待ち、バットを構える。来るボールさえ絞れれば、同じサウスポーでも藤田ほどではない。打てる。同級生の藤田の方が上だと月掛は示したかった。  いつもより長めにバットを持つ。今度はこっちが流れをもらう番だ。月掛は長打を狙っていた。  三球目だった。おあつらえのストレートが投じられ、月掛は小さな身体を思い切り使って引っ張った。  よっしゃ!  思わず、甲賀ベンチから歓声が上がる。左中間を月掛の打球が抜けていく。月掛にとって初めての長打だ。二塁へ滑り込み、高く両手を上げた。  ベンチが沸く。ネクストバッターズサークルから、静かに一人の男が立ち上がった。ここで甲賀高校打線のキーマン、三番桐葉へ打席が回る。一気に甲賀高校へ流れが傾いたという空気が流れていた。  まだ、試合は4回。やっと中盤に入ったところだ。将棋で言えば、まだお互いに牽制しながら決定的な手を打つために準備をしている段階だ。飛車や角行で大胆に攻め込むにはまだ早い。そんな局面だ。  よって、桐葉は面食らった。遠江姉妹社の監督がベンチから立ち上がったのだ。 「アンパイア! ピッチャー交代!」  もう、三人目を出してくるのか……。  三番手の投球練習が始まる。甲賀の方へ大きくうねった流れがまた止まる。簡単に流れを渡してくれない。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加