12.いざ初戦 甲賀者、参る

35/75
前へ
/531ページ
次へ
 完全に『間』が変わった。  ゆったりとしたフォームから投げられるストレートや変化球に、どうしても桐葉はタイミングを測れない。  頼む。皆がベンチの前に出て、祈るように両手を組む。2ストライクと追い込まれた桐葉が、一旦打席を外す。ふぅっとひとつ大きな息を吐いた。桐葉がこのような行動を取るのは珍しい。それほど大きな局面ということだ。  居合の構えを取る。三番手ピッチャーはごくりと唾を飲んだ。目が違う。当然だ。一太刀で人を斬るその圧を経験した者などいない。  それでも遠江姉妹社も甲子園に出るためにここまで頑張ってきたのだ。ピッチャーはサインに大きく首を縦に振り、慎重にボールを握った。このピッチャーの決め球はシンカーだ。桐葉も頭に入れていた。  外角の低めへ素晴らしいシンカーが投げられる。それを桐葉のバットが真剣の如くとらえる。  甲高い音とともに鋭い打球が放たれた。桐葉の勝ちだ。  誰もがそう思った。  だが、野球は運も局面を左右する。それは不運としか言いようがなかった。  桐葉の打球はランナーの月掛を警戒して二塁ベースに寄っていた遊撃手の正面に飛んだのだ。大きくリードを取っていた月掛が戻るが、遊撃手は大きくリードしていた月掛と二塁ベースのちょうど間にポジションを取っていた。桐葉の打球速度が速かった分、月掛は戻れずにタッチアウト。あっという間にツーアウトとなってしまった。遠江姉妹社のナインが珍しくガッツポーズした。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加