12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 不運は続く。  せっかく傾いた流れを切らすまいと、続く道河原が珍しく粘っていた。真ん中以外のボールにも食らい付き、ファールで逃げる。そして、ついにコントロールミスが起きる。  真ん中少し高めに入ってきたボールを道河原は力の限りかち上げた。天空高くに打球が上がる。高く上がりすぎて、普通の打者ならせいぜい外野フライだが、道河原のパワーは桁外れだ。遥か上空からスタンドへ向かっている。  いっけーーー!  ついに四番のホームランが出たと思ったが、不運にもこの瞬間、上空に強い風が吹いた。頂点に達した打球が風に押し戻されていく。  レフトがフェンスに背中をくっつけながら、道河原の当たりをがっちりと掴んだ。風さえ無ければ、スタンドに届いたホームランであった。  1-3のまま、流れは変わりそうで変わらなかった。悔しい、惜しい、という気持ちを胸に閉じ込め、甲賀ナインは守備へと向かう。  試合はここから硬直した。徐々に疲れが見え始めた藤田は、走者を出すも粘り強く投げる。ピンチを迎えると、守備陣がとんでもない身体能力で得点までは許さない。  甲賀打線は普段の力を取り戻していた。それでも、チャンスを作ろうとすると、またピッチャーが交代し、うまくリズムが掴めない。押しているのはどちらかといえば甲賀だったが、遠江姉妹社がギリギリのところで目線を変え、踏みとどまる。点差が、縮まらない。    回はいつの間にか終盤、七回を迎えていた。  藤田が何とか七回のマウンドに上がる。肩で息をし、顎が上がっている。  スタミナのない藤田がよくここまで投げたと言っていい。
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