12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 副島はずっと迷っていた。藤田を代えるか、代えないか。  点差は2点。ここで白烏に託したとする。理弁和歌山戦の最後のようなピッチングを見せてくれれば問題はない。だが、おそらくその確率は低い。まだ白烏のコントロールのばらつきは改善されていない。ここで白烏を出してフォアボールを連発しようものなら、遠江姉妹社につけ入る隙を与えて、そのまま試合を締められてしまう。2点差と3点差は大きい。地道にコツコツ、野球の基本で攻めてくる相手に白烏は相性が悪いだろう。  伊香保もベンチで爪を噛んでいた。頭の中でExcelを開き、瞬時に藤田の続投と白烏への投手交代をシミュレーションし、計算してみる。  藤田のこの疲労度ではこの回、次の回と点を入れられる確率が高い。だが、それ以上に今の白烏では大量点を入れられる可能性が高い。  何か、策を講じられないだろうか。そうずっと悩んでも、答えは見つけられないでいた。  そんな間に藤田は早速ピンチを背負い始める。ワンアウトから、ヒット、フォアボールを許し、決定的な4点目が目の前に迫っていた。顎が上がっている藤田と、プルペンでフォームを確認しながらシャドーピッチングを行う白烏……。副島と伊香保がその二人を交互に見る。一体どうすれば……。  経験の差。この言葉を副島と伊香保は重く痛感していた。どうしても埋められない経験の差はべンチワークにもあったのだ。  だが、一つだけ副島も伊香保も忘れていることがあった。  この球場で最も経験値が高い人物が、すぐ近くにいるということを。
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