12.いざ初戦 甲賀者、参る

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「伊香保くん、ノートの大事なところを見せてくれぬかな」  橋じいがひょこひょことベンチの前の方へ歩いてきた。 「ああ、はい。どうぞ」  伊香保はデータブックを橋じいへ手渡した。暇になっちゃったかな? それくらいに思っていた。  橋じいは伊香保のデータブックに感嘆の声を上げた。 「これは、何とも信じ得ぬ情報量じゃ。して、次の打者のウイィィクポオイントじゃが……」  伊香保は少し苛立ちの表情を見せた。橋じいの暇潰しに付き合っている暇はないのに……と。だが、しつこくされてもそれはそれで困る。 「次のバッターは明らかに打てないコースがあります。内角低め。ここを今まで打ててないんです。藤田くんがうまくそこを突いて抑えてたんですけど、今は疲れてきてるから、そこに投げられるかどうか……」  ふむ。ふむふむ。ゆっくり橋じいが読み込む間に、藤田はウィークポイントの内角低めに投げ込むが、悉く外れている。  ボーーール!  ふむ、ふむむん。  と、橋じいがすっくと立ち上がる。ふぉっふぉと髭を撫でながら、ベンチを出た。 「よおぉい、審判どのぉ、タアァァァイムじゃあ!」  突然、老人が叫び、球場の全員が驚いてピョンとその場で飛んだ。  え? え? え?  ちょっと待って? 何をする気?  橋じい、ちょっと待って。  伊香保が混乱している。
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