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「伊香保くん、ノートの大事なところを見せてくれぬかな」
橋じいがひょこひょことベンチの前の方へ歩いてきた。
「ああ、はい。どうぞ」
伊香保はデータブックを橋じいへ手渡した。暇になっちゃったかな? それくらいに思っていた。
橋じいは伊香保のデータブックに感嘆の声を上げた。
「これは、何とも信じ得ぬ情報量じゃ。して、次の打者のウイィィクポオイントじゃが……」
伊香保は少し苛立ちの表情を見せた。橋じいの暇潰しに付き合っている暇はないのに……と。だが、しつこくされてもそれはそれで困る。
「次のバッターは明らかに打てないコースがあります。内角低め。ここを今まで打ててないんです。藤田くんがうまくそこを突いて抑えてたんですけど、今は疲れてきてるから、そこに投げられるかどうか……」
ふむ。ふむふむ。ゆっくり橋じいが読み込む間に、藤田はウィークポイントの内角低めに投げ込むが、悉く外れている。
ボーーール!
ふむ、ふむむん。
と、橋じいがすっくと立ち上がる。ふぉっふぉと髭を撫でながら、ベンチを出た。
「よおぉい、審判どのぉ、タアァァァイムじゃあ!」
突然、老人が叫び、球場の全員が驚いてピョンとその場で飛んだ。
え? え? え?
ちょっと待って? 何をする気?
橋じい、ちょっと待って。
伊香保が混乱している。
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