280人が本棚に入れています
本棚に追加
滝音は深呼吸をした。まさかマウンドに登る羽目になるとは……。微塵も予想していなかった。
それでも、滝音だけは橋じいの意図を少し汲み取れていた。打者の苦手コースにきっちり投げられる投手は、消去法でいくと確かに自分なのかもしれない、と。
あとは投げてみないと分からない。正確なスローイングは落ち着けばできるかもしれない。ただ、それは野手としてのボールだ。投手のボールと明らかに違う棒球を、苦手なコースとはいえ、打てない保証なんてない。
要するに、賭けだ。
そう思うと、少し肩の力は抜けた。
ピッチャーらしくなんて投げられないが、滝音はえいやぁとコースだけを狙って投げてみた。やはり威力はない。だが、打者はそのボールを見送った。
ストッライイーク!
おぉ。道河原は思わず声を漏らした。今のを打たねえってことは、よほどこのコースを苦手としているな。道河原は自信を持って同じコースにミットを構える。
滝音は半信半疑だった。ピッチャーの代わりたてだ。様子を見ただけかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!