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「審判どの。選手の交代を言いますぞ」
ゆっくりと白烏がファウルゾーンからフェアゾーンへ線を跨ごうとした時、その声は聞こえてきた。
「三塁手の蛇沼くんを投手にしますぞ」
「……………………へ?」
「……………………へ?」
白烏と蛇沼が同時に声を出した。
「面倒じゃろうし、滝音くんはそのまま三塁手で結構」
「……………………へ?」
滝音も声を出す。副島はレフトから声も出せない。
橋じい劇場は味方すら混乱の渦中に誘う。敵の遠江姉妹社はそれどころではない。
「おいっ、あのサードの投手データはあるのか?」
「いえ、無いです。ていうか、そもそも甲賀のデータはほとんどないです」
「そうか、そうやわな」
遠江姉妹社は怖がっていた。不安いっぱいでマウンドに登る蛇沼を見て。
「滝音くん、僕、どうすればいいの?」
蛇沼が目に涙を溜めて滝音に訊ねた。
「俺も分かんない。でも、たぶんだけど、蛇沼の別の顔をしたとき。あれなんだと思う」
「……分かった。やってみるよ」
ファウルゾーンの片隅で白烏が小さな泡を吹いて直立不動でいる。背番号1は蛇沼よりも信頼がない。それは白烏の心を完全に砕いた。
「白烏くーん、そこじゃまー」
虚しく桔梗の声が白烏の鼓膜に響いていた。
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