12.いざ初戦 甲賀者、参る

44/75
前へ
/531ページ
次へ
 打席に入っている打者は変化球が苦手だ。しかも、今まで見たことのないナックルを投げる投手が相手に出てきてしまった。初球は確実にボールだと思ったのに、異様に曲がってストライクを取られてしまった。  相手の甲賀はここまでこのナックルボーラーを温存していたんだ……。打者は甲賀高校のタレント力に敬服した。  なんとそこまで、この打者は勘違いしてくれていた。  橋じいがここまで計算していたのであれば、名伯楽誕生と言えるが、橋じいはベンチの奥でこぼしたお茶の掃除をしていた。どこまで読んでの起用であったのかは謎のままだ。  とにかく、こうなってくれると、蛇沼は助かる。道河原の体躯は的が大きく投げやすい。またとんでもない握りかたをして、2球目を投じた。が、その2球目は目も当てられないほどに、ストライクゾーンから離れていく。道河原が手を伸ばしても届かず、ボールは後ろに転がっていった。  しまった。蛇沼と道河原がどちらもそう声を出しそうになった瞬間、驚くことに審判が叫んだ。  ストライクッ!  打者はそんなとんでもないボール球をスイングしていたのだ。さすがに遠江姉妹社ベンチから監督の怒号が飛ぶ。  それでも、初球のストライクが頭に残っていたのか、結局フルカウントからのボール球に手を出してくれ、蛇沼もまた人生初のマウンドを三振という最高の形でマウンドを降りた。    守備位置から皆が戻ると、甲賀ベンチはお祭り騒ぎとなっていた。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加