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「すげえな、さっきの起用は。結局はああ見せかけて伊香保の案やったんか?」
レフトから戻ってきた副島が伊香保に訊ねる。伊香保は苦笑いして、首を振った。
「ううん、ほんとに橋じいが勝手にベンチ出て決めちゃったの。心臓止まるかと思ったわ」
橋じいがベンチの奥から、戻ってきた甲賀ナインへ拍手を送った。
「諸君は作戦を見事に成功させれり! 天晴れじゃよ。まさに、第二次世界大戦におけるドオォイツ軍によるバアルジの戦いの如し!」
橋じい独特の褒め言葉にナインが苦笑いを浮かべる。
それにしても、改めてこの采配は大きかった。少しでも藤田を休ませられているのも大きい。
一方、甲賀に一人、元気を出せないものがいた。
ベンチの最前列で白烏が笑みを浮かべて皆を迎えている。本当は心中穏やかではないだろう。
「結人、お前の力が必要になるときがくる」
滝音がそっと肩に手を乗せる。
「分かってんよ。ま、鏡水が先に登板するとは思わんかったけどな」
白烏も滝音の肩を叩いた。そのグッと悔しさを堪える白烏を見て、負けている状況ながら滝音はひとつの手応えを感じていた。
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