12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 甲賀高校は遠江姉妹社の投手を徐々にとらえ始める。  少しずつタイミングが合い、ヒットが続いていく。それでも、遠江姉妹社はランナーが溜まると細かく三人の投手を継投させ、甲賀のリズムを奪う。あと一歩のところで得点には至らない。  逆に甲賀も遠江姉妹社のお株を奪う投手交代を橋じいが見せる。8回はまたしても滝音が投げ、ヒットを打たれると蛇沼へ交代、最後はまたしても滝音を送り、桐葉のファインプレーで事なきを得た。  そして、試合は大詰め。9回の攻防へと移っていく。 「藤田、どうや? いけそうか?」  同級生の月掛がベンチで背もたれに身体を預ける藤田に問いかけた。 「おかげで休めはしたけど、肩が重いや……」  藤田は肩をゆっくり回しながら顔をしかめた。 「藤田くんよ、最後は君しかおらんぞよ。ほっほっ、頑張ってもりゃわんと」  橋じいがそう言って、熱い煎茶を差し出したが、丁重に藤田は断った。2イニング休めたのは大きい。それでも、藤田は疲労の蓄積と、あと一点取られたらおしまいだというプレッシャーで表情が浮かない。  かといって、未完成の白烏をここで出すわけにもいかず、滝音や蛇沼といった奇策ももう通しないであろう。  副島をはじめ、皆が自信なさげな藤田に困った視線を送る。皆がその困った顔を隣に向ける。副島は隣の滝音に、滝音は隣の蛇沼に……というように。その視線は最後尾にいた桔梗へ向けられた。  皆がその瞬間、思った。藤田を元気にできるのは桔梗しかいない、と。
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