12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 藤田はまるで初回に戻ったかのような球威を取り戻していた。 『俺も……桔梗さんと少しでも長く一緒にいたいです』  気迫のこもった投球練習を終え、桔梗のいるライトへ目を向けた。桔梗は照れているのか、目線を大きく逸らしている。藤田は、そんな大胆であり、時折照れたりする桔梗の虜だ。ユニフォームの胸をきゅっと握り締め、桔梗の笑顔を想像し、にやけた。  桔梗はただ単に、飛んでいる鳥を眺めていた。 『あー、野球って9回までやったら長いなぁ。さらしがキツくなってきたわぁ。早く終わんないかなぁ』  何はともあれ、橋じいの作戦で休み、桔梗の色仕掛けでメンタルも回復した藤田は、9回の遠江姉妹社打線をきりきりまいにした。  ストレートも変化球も、ビシバシと厳しいコースに決めていく。なんと、三番、四番、五番を全て三振で9回の守りを終えたのだ。  まさに圧巻であった。  これまで遠江姉妹社のペースで運ばれていた試合は、徐々に甲賀が土俵際から土俵中央へ押し戻し、この9回表で完全に甲賀が押した。  但し、スコアは1-3。  あとは、たった1イニングで2点差を追いつけるのか、それとも遠江姉妹社が最後まで試合巧者ぶりを発揮して逃げ切るのか。  一番の犬走から始まる9回裏の打線次第となった。
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