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や、山? 犬走の父親が、す、棄てた?
副島の頭が想像力の限界まで引き出して浮かべた映像は、世にも恐ろしい映像だった。言葉が出ない。
副島は震えた。とんでもないことを聞いてしまった。そりゃ泣くのも頷ける。
犬走家とその一家にどんな怨恨が渦巻いていたか分からないが、犬走はよほど恐ろしい日々を送っていたのだろう。
「……うんと……俺さ、野球部復活させるんだけど、和歌山の高校とも練習試合するんだ。それと合宿並行させて、探しに行くかい? 犬走の脚があれば俺も助かるし。犬走もそのシンくんたちを探しに行ける良い機会かもしれないし。……俺にはそれくらいしかしてあげられないけど」
大混乱の頭の中、微かに残っていた勧誘という目的を思い出し、副島はダメもとで勧誘した。
「………………うん」
「え?」
「分かった。俺はシンたちを探しに行きたい」
泣き声が少し収まり、はきとした声が返ってきた。
「……野球部、入ってくれるのか?」
「ああ」
犬走和巳の入部が決まった。
副島は犬走という最速の一番打者加入の喜びよりも、シンくん、ヒョウくん、セイくんという見ず知らずの三人への心配が尽きなかった。
「犬走……シンくんたち、無事だといいな」
「ああ、ありがとう、副島」
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