12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 ダメだ、間に合わない。  遠江姉妹社のナインが絶望した。たった一瞬の出来事だったが、明らかに人がボールより速く走っている。もう、犬走は一塁の手前だ。  だが、一塁までもうあと二歩というところで、犬走に異変が起きる。  犬走は足をもつれさせ、倒れたのだ。倒れると同時に一塁手がボールを捕る。微妙なタイミングだった。一瞬の静寂が漂い、審判が手を上げる。  セーーーフ!!  間一髪、犬走がベースへ倒れた方が早かった。  セーフというコールに喜びの声をあげる者は甲賀野球部員には一人もいなかった。たまらず、全員が一塁へ走った。  明らかに異常事態だと、皆が分かったからだ。 「犬走っ!」  副島を先頭に一塁上に倒れる犬走のもとへ駆け寄った。審判がタイムをかけ、プレーが中断する。素早くグラウンドに担架が運びこまれてきた。 「大丈夫か、犬走」 「大丈夫か」 「大丈夫すか?」  副島が医務員とともに犬走の(わき)を抱え、皆が心配そうに犬走へ声をかける。 「あぁ、ごめん。倒れちまった」  犬走は苦笑いしながら、皆に応えた。道河原が犬走のスパイクを脱がせようとする。 「君、やめておきなさい」  医務員が道河原を制した。道河原はスパイクを引っ張り、大きな違和感を覚えて、手を離していた。スパイクを引っ張ると、犬走の足が力なく伸びたのだ。 「こちらでやるから、やめておきなさい。アキレス腱が両足とも切れている」  医務員がそう小さく呟いた。 「……マジかよ」
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