12.いざ初戦 甲賀者、参る

57/75
前へ
/531ページ
次へ
 小さく跳ねるようにリズムを取る月掛に、交代してマウンドに上がった左投手は、じいっと間合いを取った。なかなか投げようとしてこない。じりじりと、時間が過ぎていく。  月掛の弱点をこの短時間で見抜いていた。月掛は積極的すぎて、気持ちがはやってしまう。遠江姉妹社はそこを巧みに利用する。  そして……。  やっと投じられたボールを月掛は積極的に打ちにいった。左投手から投じられる内角へのストレートは素人ではなかなか打てない。ここ数ヶ月、練習を重ね、常人とかけ離れた運動能力を誇る月掛でも、まだこのボールに対処できるバッティングまでは到達していない。 「ちっ、打ちにくいぜ」  それでも必死に脇を締めて、月掛はボールをとらえようとした。その瞬間、もう一段階、ボールが月掛の身体めがけて食い込んできた。いわゆるカットボールという球種だ。 「しまっ……」  鈍い音と共に、ボテボテのゴロが転がる。ここでダブルプレーにでもなったら、負けちまう。悔しさでいっぱいの気持ちを圧し殺して、月掛は一塁へ全速力で駆けた。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加