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小さく跳ねるようにリズムを取る月掛に、交代してマウンドに上がった左投手は、じいっと間合いを取った。なかなか投げようとしてこない。じりじりと、時間が過ぎていく。
月掛の弱点をこの短時間で見抜いていた。月掛は積極的すぎて、気持ちがはやってしまう。遠江姉妹社はそこを巧みに利用する。
そして……。
やっと投じられたボールを月掛は積極的に打ちにいった。左投手から投じられる内角へのストレートは素人ではなかなか打てない。ここ数ヶ月、練習を重ね、常人とかけ離れた運動能力を誇る月掛でも、まだこのボールに対処できるバッティングまでは到達していない。
「ちっ、打ちにくいぜ」
それでも必死に脇を締めて、月掛はボールをとらえようとした。その瞬間、もう一段階、ボールが月掛の身体めがけて食い込んできた。いわゆるカットボールという球種だ。
「しまっ……」
鈍い音と共に、ボテボテのゴロが転がる。ここでダブルプレーにでもなったら、負けちまう。悔しさでいっぱいの気持ちを圧し殺して、月掛は一塁へ全速力で駆けた。
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