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9回裏、ワンアウト二塁。
甲賀1-3遠江姉妹社。
ここで、三番、桐葉が打席へ向かう。
「桐葉、ピッチャーまた代わったけど、自分のペースで!」
大事そうにバットを抱える桐葉は、滝音が掛けたその言葉に振り向いた。
「打線は1点しか取っていない。犬走と月掛で取った1点だけ。その責任は俺にある。必ず、任務を果たす」
桐葉が凛とした姿勢で打席に入ると、マウンドのピッチャーはひとつ唾を飲み込んだ。殺気が充ちていた。
「桐葉くん、間違いなく打つね。格が違うわ。今までピッチャー代えられてばかりだったけど、あの右ピッチャーは一回対戦してるから、桐葉くんが勝つな」
桔梗がそんなことを言った。皆も同じくそう思っていた。
「……いや、桐葉は打たれへんな」
副島がぽつりとそう返した。
「え? それって油断するなってこと? 桐葉くんは油断してないよ」
「そういうことやない。打たれへんのちゃうな。正確に言うと、打たせてくれへんわ」
そう言って、副島はネクストバッターズサークルに入った道河原を見た。
「……なるほど、それはそうだな。一塁は空いてるんだ。桐葉とは勝負せずに敬遠してくるだろう。あっちは道河原で勝負してくる。……で、副島……そうなったら、どうする?」
滝音が副島に問う。
副島は眉間に大きな皺を寄せて、腕組みをした。
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