12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 形だけのセットポジションから、ピッチャーは立ち上がったキャッチャーめがけて緩いボールを投げる。  え?  遠江姉妹社のキャッチャーが思わず声を出した。  ひゅるりと目の前で桐葉が舞っている。囃拍子に合わせて踊る舞妓のように、ゆるりと、ひらりと。桐葉の長い髪が、陽光に煌めきながらキャッチャーの目の前で揺れていた。 「舞葉斬(まいはざん)」  払う。そう表現するしか、日本語にはないだろうか。ゆらりと宙を舞う桐葉の右手にバットが伸びている。そのバットも桐葉の身体の一部のように舞い、しなり、そのまま遠く外側に放られたボールを払ったのだ。  聞いたことのない打撃音とともに、鋭く打球が弾かれる。三塁手の隣をスライスしながら打球が通りすぎていく。速すぎて、三塁手は反応できなかった。打球はフェアゾーンのギリギリでバウンドし、強烈なスピンとともにファウルゾーンを転がっていく。  フェア!  線審が片手を伸ばし、フェアをコールした。勢いよく、白烏が三塁を蹴る。レフトがボールを必死に追うが、もう白烏の本塁突入までは避けられないだろう。打たれたバッテリーが呆然とボールの行方を見つめていた。
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