12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 道河原はチームの四番、云わば打線の要だ。  副島が道河原を四番に据えているのには2つの理由がある。  圧倒的な存在感から、四番に入れて桐葉が勝負を避けられないようにという戦略の面と、いつかメジャーでも通用するのでは……と思えるパワーにどうしても期待してしまうという面だ。  いつもの実力を過信してしまう道河原なら、おそらくこう言って打席へ向かっただろう。 「サヨナラホームラン打ってきたるわ。なっはっは」  だが、道河原は静かに打席に向かった。 「道河原さん、静かっすね。緊張するんすね、あの人でも」  月掛が言うと、滝音が首を振った。 「道河原家は甲賀の中でも辛い任務を背負ってきた血が流れている。あの伝統的な圧倒的体躯で、代々に渡って主君を守ってきた。その目の前で仲間や家族が死んでいっても、道河原家が主君のもとを離れたことはなかったと聞いている。自身が千本の矢に射られたとしても、主君の前を空けなかった。それが、甲賀流道河原家だ」 「それと、何の関係があるんすか?」 「本当は道河原だけのミスじゃないが、3失点のうち、2点は道河原の悪送球から入った点だ。その自身のミスを犬走が足を失ってまで出塁した。桐葉が無理をして三塁を奪った。期するものがある。そういうことだろう」  ここで俺がホームラン狙って三振したら、何のために犬走は怪我をしたのか、何のために桐葉は敬遠球を打ってまで三塁まで走ったか。男たる者、その思いに応えられずで良い訳がない。しかも、負けているのは自分のせいだ。ここで意地など張れば、一族の恥。  道河原はひときわバットを短く持った。
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