12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 副島は思わぬ孤独と戦っていた。  部員がいない頃から、汗ばむ夏も凍える冬も奔走し、やっと部として成り立った。素人の部員である忍者たちに手取り足取り、自分の練習時間を割いてノックしてきた。  チアや応援団はいない。それでも、この9回裏ツーアウト。応援団をも凌ぐ、部員たちからの大声援を背に打席に立つものだと信じていた。  念のため、もう一度、ちらりとベンチを確認してみる。まだ輪になって、ミーティングをしている。副島からはみんなの背中しか見えない。  ……おいおい、こら。  …………おいおい、キャプテンやぞ。  ………………おいおい、こっち見んかいや。  ピッチャーが振りかぶって、副島へと投げる。  ちらり。一縷の望みを賭け、もう一度ベンチを見る。ドッキリなんじゃないか。結局みんなでこっちを見て拳を握っているのではないか。そんな淡い期待を胸に横目で見たベンチは、やはり、皆の尻しか見えない。 「まぁだ、9回裏はぁぁ、終わってぇ、ないでしょがああああぁぁ!!!」  そう叫びながら、スイングしたバットはボールを真芯でとらえた。  カッキイイイィィィィン!!!!  その音にやっと甲賀ベンチが副島の存在を思い出す。  ボールは水色をした空に溶けながら、レフトスタンドへと吸い込まれていった。 「うおおおおおおおお」  怒号のような歓声が甲賀ベンチからこだまする。遠江姉妹社のナインが土の上に膝から崩れる。歓喜と悲哀が入り雑じる中、サヨナラホームランを放った男は、唇を尖らせてダイヤモンドを回っていた。 「うおおおおおおおお、ちゃうわ。アホどもめ。見てへんかったやんけ」  甲賀4-3遠江姉妹社  キャプテン副島のサヨナラホームランにて、ついに決着。  甲賀高校、初戦突破。
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