12.いざ初戦 甲賀者、参る

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 ぷいっ  子供のように頬を膨らませて、副島はベンチ前でいじけていた。構わずナインが副島に飛びかかる。もみくちゃにされて、副島は皆に気付かれないように満面の笑みを浮かべていた。 「さっすが、キャプテンやな。ナイバッティン!」 「お前ら、全然こっち見てへんかったやんけ」 「ええやんか、そんなん。初戦突破や!」  勝利とはこんなに嬉しいものなのか。初めて知ったスポーツでの勝利を、甲賀忍者たちは噛み締めていた。もちろん、副島も、藤田も。 「よしっ、とりあえずここまでや。とりあえず整列すんで。礼儀を欠いたらカッコ悪いからな」  副島が沸き返る甲賀ベンチを鎮め、整列を促す。甲賀ナインがきちんと帽子をかぶり直し、本塁へ駆ける。  本塁の直線上に一列で並んだとき、甲賀ナインは初めて甲子園の重みを知ることになった。  目の前で遠江姉妹社のナインが泣き崩れていた。帽子をくしゃくしゃに握り締めながら、嗚咽を漏らし、憚らず泣いていた。  淡々と機械のように投げた3人の投手も、散々良い守備を見せた三塁手も、甲賀の型破りな野球を目の前で見ながら必死で指示を送っていたキャッチャーも。  みんなが声をあげて泣いていた。  そして、初回のたった4球でボールに触れることもなくグラウンドを去ったライトの選手が、涙を流しながら、それでも気丈に崩れ落ちる仲間を支えていた。 「みんな、俺の方は見んでもええ。列を崩さずに聞いてくれ」  小さな声で先頭の副島がナインに語りかけた。   「遠江姉妹社さんは毎年甲子園出場を期待される強豪や。俺らよりずっとずっと3年間ボールを追っかけて、血まめができるまでバット振ってきはったんや。甲子園という夢を俺らは奪った。甲子園ってこんだけすごい舞台なんや。遠江姉妹社さんのこの涙を胸に刻め。俺らはその分も背負っていくんや。ええな、みんな?」 「おお」 「ああ」    甲賀ナインは口をきゅっと引き締めて、しっかりと指先まで伸ばして気をつけの姿勢をとった。  ゲームセット!  主審の声が響く。  甲賀ナインは深々と敬意を込めた礼をし、涙を拭いた遠江姉妹社ナインと各々握手を交わした。  この握力を胸に刻め、甲賀者たちよ。  滋賀県大会二日目、第二試合。  甲賀4-3遠江姉妹社。
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