12.いざ初戦 甲賀者、参る

72/75
前へ
/531ページ
次へ
「まずは入院している犬走くんを無理にでも退院させる。手術は断ってって伝えたから縫合されてないと思うけど……」 「分かった。橋じいが犬走のお母さんに連絡して事情を説明してくれてる。お母さんと合流して、東雲家を名乗れば分かってくれるだろ」  行き交う人の群れを二人がスラロームのようにかわしていく。すれ違った人々が何者かと振り返るが、既に二人の姿は見えない。 「滝音くんの冷静なリード、かっこ良かったよ! ちょっときゅんとしちゃった」  走りながら桔梗が滝音に身を寄せる。 「ふっ、俺に艷術は通じないぞ」 「ちぇっ、滝音くんは由依とできてるもんね」 「って、できてねえよ! 俺と伊香保は勝つために一緒に分析してるだけだ」 「ふふ、耳真っ赤にしちゃって。かわいい」    桔梗の甘い香りが通りに立ち込める。病院が見えてきた。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加