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「お母さん、犬走くん連れてきた」
桔梗の母は髪を束ね上げ、静かに目を閉じた。
「一週間で走れるようにって、正気?」
「ごめん、お母さん。部員は犬走くん入れても10人しかいないの。何としても一週間で走れるように……」
桔梗の母はふっと呆れたように笑い、白い装束に身を包んだ。
「東雲、お母さん、すみません」
ベッドに横たわっている犬走が申し訳なさそうに謝った。
「君は勝つために無理をしたんでしょ? それならば謝る必要なんかないわ。それより、桔梗が言うように、君が試合に出たいと言うならば、これからの手術は覚悟が必要。痛いわよ。痛いなんてもんじゃない。君は泣きわめくことになると思う。それでも、やる?」
犬走はこくりと頷いた。
「ふふ、男の子ね」
桔梗の母の艶っぽい唇が照明に照らされて光っていた。
「桔梗、あなたは犬走くんを押さえる役目。どんなに辛くても押さえておきなさい」
桔梗が覚悟したように頷いた。
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