12.いざ初戦 甲賀者、参る

74/75
前へ
/531ページ
次へ
「お母さん、犬走くん連れてきた」  桔梗の母は髪を束ね上げ、静かに目を閉じた。   「一週間で走れるようにって、正気?」 「ごめん、お母さん。部員は犬走くん入れても10人しかいないの。何としても一週間で走れるように……」  桔梗の母はふっと呆れたように笑い、白い装束に身を包んだ。 「東雲、お母さん、すみません」  ベッドに横たわっている犬走が申し訳なさそうに謝った。 「君は勝つために無理をしたんでしょ? それならば謝る必要なんかないわ。それより、桔梗が言うように、君が試合に出たいと言うならば、これからの手術は覚悟が必要。痛いわよ。痛いなんてもんじゃない。君は泣きわめくことになると思う。それでも、やる?」  犬走はこくりと頷いた。 「ふふ、男の子ね」  桔梗の母の艶っぽい唇が照明に照らされて光っていた。 「桔梗、あなたは犬走くんを押さえる役目。どんなに辛くても押さえておきなさい」  桔梗が覚悟したように頷いた。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加