13.エースと四番

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 続く三回戦、近年力をつけてきた彩羽根高校を相手にして、甲賀はいよいよ乗ってくる。  活躍したのは蛇沼と桔梗であった。相手ピッチャーのナックルカーブという揺れるような大きな変化球にこの二人が対応したのだ。  特に蛇沼はひねくれたもう一人の自分を出し、揺れるボールをことごとく打ち放った。初本塁打を含む5打数4安打、1本塁打、5打点というめざましい活躍であった。 「神さん、四番みたいやん! すげえすげえ!」  ベンチで月掛に何度も叩かれていた。  一方の桔梗は、この三回戦から自分のペースを掴み始めていた。大会に慣れてきたようで、得意の色気で翻弄するようになったのだ。  物憂げな瞳と女性のようなしおらしさ(正真正銘の女性だが)に、彩羽根高校のバッテリーは厳しいコースを攻められない。それに加えて、ナックルカーブは厄介だが、桔梗にとっては速いボールよりよっぽど打ちやすかった。  蛇沼同様、初めての二塁打を含む5打数3安打、2打点の活躍。皆が無邪気に喜ぶ桔梗を讃えた。 「桔梗さん、すごいです」  藤田が桔梗とハイタッチすると、桔梗は身体を寄せてウインクした。 「あとは藤田くんのピッチングだね」  さらしを巻いても少し膨らみのある桔梗の胸が、藤田の左腕に微かに当たった。 「ぁん」  だめ押しの吐息を桔梗が藤田に浴びせる。  藤田のアドレナリンが沸騰した。  藤田はこの直後から140km台のストレートを連発する。人生初の145kmまで記録した。彩羽根高校は覚醒した藤田に手も足も出なかった。ちなみにこの試合以降、藤田はユニフォームを手洗いに切り替え、左腕の部分だけは一度も洗っていない。  9-1でまさかの七回コールドゲーム。甲賀の圧勝となった。  彩羽根1-9甲賀  甲賀高校、準々決勝進出。
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