13.エースと四番

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「伊香保、橋爪先生。もう俺、大丈夫です。出ます」  奥でずっとストレッチをしていた犬走が、ベンチに入るなりそう告げた。言葉と裏腹に表情は険しい。 「本当かね。無理をして将来を棒に振ることはあってはならんですぞ、若人よ」  珍しく橋じいが心配そうに眉をひそめる。伊香保もそれに追随した。 「確かにこのままじゃまずいけど、あたしはとてもこんな短期間で走れるとは思わない」  出場を反対された二人を尻目に、犬走は副島に直訴した。試合に出ないまま敗退は嫌だ。その想いだけだった。 「副島、俺は出られる。走れる。出してくれ」  ベンチに入ってきた副島に犬走がそうねだると、副島は厳しい目つきで犬走を制した。 「犬走、俺は東雲に明後日までは絶対に駄目やと止められとる」 「けど……このまんまやったら……」  滝音がそこに割って入った。 「この試合は知恵比べだ。あっちの戦い方と戦力は分かった。あとはこちらの知恵を見せる。おそらく、犬走を欠いてもこちらの方が強い。ベンチで見ておいてくれ」  まるで軍師のようなその言い方に犬走はベンチにちょこりと腰を落とした。
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