13.エースと四番

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 滝音の言う通り、蛇沼と桔梗が速球をただただ当ててはファウルにしていく。  ピッチャーが汗を拭う。キャッチャーもマスクを取って汗を払う。やがて何球ものボールを投げさせられ、根負けし、二人をフォアボールで歩かせた。滝音は軽く膝を叩いて拳を握った。  東彦根は県内屈指の進学校だ。東彦根は甲賀高校の攻略法を解いたと思ったはずだった。  蛇沼と桔梗、道河原、白烏からは確実にアウトを取る。アウトを取れそうにない桐葉と藤田は歩かせても、それで勝てるという計算だった。  だが、アウトを計算できる二人がランナーとして出ると、脆くも頭脳は崩壊していった。打たれていないのに四死球でランナーが溜まり、アウトを取らざるを得ない状況で藤田や桐葉に回る。藤田と桐葉に細心の注意を払いながら投じるも、二人は上手く打ち返す。並のピッチャーではもうこの二人は抑えられない。  それに加えて、派手さは無いが穴の無い副島と滝音を打席に迎えると、もう精神的に甲賀が圧倒していた。精神的に勝てば、五分五分の勝負ではメンタルで勝った方に分がある。副島と滝音はその五分五分の勝負に勝つ。溜まったランナーを副島と滝音がものの見事に返していった。  あっという間に追いつき、そこからは甲賀がリードを許すことはなかった。  終わってみれば、副島が3安打4打点。滝音も3安打4打点。  甲賀11-8東彦根  甲賀高校、準決勝進出! 「よくあそこから追いついたよね、僕ら」  球場から出ると、大きな太陽が昇っていた。その眩い太陽に蛇沼が言った。 「俺にとっては1回戦の遠江姉妹社の方が嫌だった。真っ向勝負の頭脳戦なら負けはしないよ」  滝音がこんこんとこめかみをつつきながらそう言った。  かくして、無名かつたった10人の甲賀高校は準決勝に進むこととなった。  負傷したものの、犬走の圧倒的走力。  月掛の桁違いの飛翔力。  蛇沼の意外性。  桔梗の妖艶。  滝音の読みに副島と藤田の経験。  これらは大きな化学反応の見せ、甲賀高校は滋賀大会の主役の一校に躍り出ていた。
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