13.エースと四番

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 副島は夜、眠れなかった。  ついに滋賀学院と遠江という滋賀県の甲子園常連校との対戦を迎える。高揚を抑えろという方が無理だ。  夜風を浴びようと自転車に跨がり、いつの間にか高校前に着いた。 「やっぱ素振りするならここやな」  副島がバットケースを肩から下ろすと、グラウンドからボールが壁に当たる音とバットが風を切る音がする。 「何だ?」  グラウンドに高く聳える時計台は23時を過ぎている。様子をブロック塀の隙間から窺うと、黙々と投げる白烏とびしょ濡れでバットを振り込む道河原が見えた。 「……あいつら」  副島はそっとバットケースを肩に提げ、自転車のペダルを踏んだ。 「今、行ったら野暮やな」  黒い夜空に小さな星10個。真ん中に月が真ん丸く輝いていた。副島はその月に微笑んだ。 「あいつら二人が完成してみ。どえらいチームになんで。なぁ、兄ちゃん」  月が副島に笑った気がした。  さあ、お天道様が上がったら準決勝だ。
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